2019-03-01 (7期) 岩澤 延枝さん
長野からの帰り、急ぐ旅でもないので新幹線代を節約して、松本までの鈍行に乗った。たまたま座った左側の窓から、たまたま目をやった景色に、衝撃を受けた。畦道にふちどられた雪の棚田が、一面に広がっている。私の愛してやまない棚田が。数秒で列車は樹林にはいってしまった。残念さが爆発しそうになった時、列車はピタリと止まり、なんとバックし始めた。もと来た線路より高く登り、駅にはいったのだ。
そこは「姨捨」(おばすて)。3分ほどの停車中、特急が下の線路を通過する、スイッチバック。私は、地獄から天国への心地でホームに降り立ち、写真を撮りながら、田植えの頃に絶対に来よう、と誓った。
4か月後、再び左側の窓にへばりついていた。ここは、日本三大車窓風景に数えられ、列車は広大な善光寺平を見下ろす山腹をトラバース、樹間から1500枚の棚田風景が開けてくる。まずはホームで棚田を俯瞰しつつ腹ごしらえ。木造の小さな屋根付きベンチと、墨書きの駅名は、日帰りなのに大いに旅行気分にさせてくれる。間近で見る炎天下の苗は、実に健気で美しかった。農家の長年の苦労に思いを馳せながら、4時間も棚田を上り下りして名残を惜しんだ。