歓喜よ! 美しき神々の火花よ!(Freude! schöner Götterfunken!) ♪ ♬ 、、、
これは毎年年末になると多くのコンサートで演奏される、ベートーベンの交響曲「第九番合唱つき」という曲での最後の歌詞です。第4楽章でソロと混声4部合唱が高らかに歌いあげる、あの有名な「第九」。最近は、市民参加型の演奏会も数多く、私も何度か聴きに行ったことがあります。すばらしい曲です。でも、聴いている時は感動していたのですが、でも、自分が歌うことなど想像もしていませんでした。それが昨年暮れ、標題のように、♪フローイデ♪シェーーーネル♪ゲッーテルフンケン♪と、東京文化会館のステージに立ってなんと自分が歌ってしまったのでした。

ことの始まりは昨年の夏ころ、飲み会で大学の先輩に会った時、俺もやってるからお前もやってみないかという、お誘いのような命令のようなことを言われてたのですが、自分は合唱の経験など全くなく、カラオケもあまりやらない性質(たち)ですが、酔った勢いで(いつもこれで人生失敗している)、つい、やりますと言ってしまった。

さあ、それから大変な日々が始まりました。
参加したのは、今回で「第九」演奏会が128回になる市民合唱団の名門「東京労音第九合唱団」。レベルはかなり高い。指揮者は世界的に活躍している浮ヶ谷孝夫氏、オーケーストラはプロの東京ニューシティー管弦楽団。な、なんだ!8月の最終週から練習が始まりましたが、4ヶ月足らずで本番なの?週3回練習があるのですが、最低1回は参加が義務付けられている。と言っても初めての私にとっては3回すべて参加が必須のようなもの。一回の練習は3時間ほど。発声から、ドイツ語の発音まで細かく指導される。だが発声練習などしたことがない、曲は知らない、しかもドイツ語?全くわからない。加えてなんと本番は暗譜(譜面を見ないで全て暗記すること)???。

ドイツ語の歌詞にカタカナをふって(カナをふってはいけないと言われているが仕方がない)。でも音符と歌詞のどっちを見ればいいのだ?(当然どっちも一緒に読まなければならない。)家での予習、復習のため練習用CDというのがあり、それを何度も何度も聴いて練習した。だんだん歌えるようになって来たが、今度はオーケストラに合わせて歌うのがまた大変。演奏のCDを聴きながら、入るところや曲の流れ、曲想などを覚えていく。本番の10日ほど前になって初めて指揮者との合せ。本番2日前に始めてオーケストラと顔合わせ。プロってそんなものなのですね。1回か2回の練習で本番をやっちゃうのだ。

大変尽くしの4ヶ月をすごし、本番の12月23日を迎えた。私は背が低いので一番前に並ぶにかと思ったら、あんたは新人だからということでベテランに囲まれるような立ち位置。それでも、一流のホールと一流の指揮者とプロのオーケストラと、歴史ある300人の合唱団の中の、わずかに小さな自分ひとり。でも、思い切り歌うことができました。ザイトゥムシュルンゲン、ミリオーネン、ディーゼン、クス、デル、ガン、ゼン、ヴェルトゥ(抱かれなさい、幾百万の民よ、この愛の口づけを全世界に!!!)

シラーの原詩にベートーベンが加筆して作られたという「第九」。日本での初めて「第九」が演奏されたのは、1924年(大正13年)福島県にあった坂東俘虜収容所でのドイツ人捕虜による演奏だといわれています。その後、かの戦争のとき学徒出陣で入営する東京音楽学校の生徒の繰上卒業式で演奏した「第九」を、焼土と化した戦後1947年12月に、あの「第九」をもう一度やろうと演奏されたのが、日本の年末「第九」の形成になったとも。

いま、いつか来た「戦争」への道に戻ろうとする潮流が勢いを増している時勢、世界平和と全人類への愛を歌いあげたこの曲が毎年歌い続けられることが、なお重要な意味を持っていると思う。その「第九」を歌い終わった時は、2016年の自分が燃え尽きた瞬間でした。(7期:佐野英二)